top of page

9,気になる、気にする、気遣う

  • 2024年3月20日
  • 読了時間: 3分

 前回は、詩人・ねじめ正一から始まる「詩のボクシング」、会場の人々を踊り出させる「カラオケ・エンタ」、70年前の従妹との再会による「タイムスリップ・エンタ」、4,000枚のCDから新しい自己を紡ぎ出す「未来自分作りエンタ」、「宮崎アニメの網の目構造と交差する「メディア・トリップエンタ」と、哲学エンタの多彩な発展型を見ることが出来ました。

 

 本日は、日常の暮らしの中で、皆さんが「気になる」「気にしている」ことを開陳してもらいます。気になる、気にするの「気」は、ソクラテスのエピメレイア(ἐπιμέλεια、 気遣い)と、ハイデガー哲学の「実存者」に求められる「ゾルゲ」(Sorge 気を配る)に通じています。


 ソクラテスの「気遣い」は、プラトンがソクラテス裁判を忠実に再現したとされている対話編『ソクラテスの弁明』の中で、告発者のアニュトスを前にして、傍聴している大衆の一人一人に向けての次のような語りとして登場します。


「君は、アテナイという、知力においても武力においても最も評判の高い偉大な国都(ポリス)の人でありながら、ただ金銭をできるだけ多く自分のものにしたいということにばかり気をつかっていて、恥ずかしくはないのか。評判や地位のことは気にしても思慮や真実のことは気にかけず、魂(いのち)をできるだけすぐれたものにするということに気もつかわず心配もしていないとは」(田中美知太郎・責任編集「ソクラテスの弁明」『プラトンⅠ』世界の名著6、中央公論社、p.435)


 「わたしが歩きまわっておこなっていることはといえば、ただ、次のことだけなのです。諸君のうちの若い人にも、年寄りの人にも、だれにでも魂ができるだけすぐれたものになるよう、ずいぶん気をつかうべきであって、それよりもさきに、もしくは同程度にでも、身体や金銭のことを気にしてはならない、と説くわけなのです。そしてそれは、いくら金銭をつんでも、そこからすぐれた魂が生まれてくるわけではなく、金銭その他のものが人間のために善いものとなるのは、公私いずれにおいても、すべては、魂のすぐれていることによるのだから、というわけなのです」(同pp.435-436)


 「すぐれた=γαθος」、の最上級名詞形が「徳」(アレテーρετή)で、納富信富訳『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)では、「徳」を使っています(同書pp.62-63)


 ハイデガー存在論の核心は「私たち人間は共同存在として、本質的に他人のために『存在する』」ことにあります(『存在と時間 上』岩波文庫、桑木務訳、「第4章 共同存在および自己存在としての世界・内・存在。「ひと」pp.232-237)。「ゾルゲ」は、他者の存在を「思いやること」「忘れないこと」「他者に常にまなざしを向けること」であり、生物学者ユクスキュル風に言えば他者の「環世界」を共有すること、を意味しています。他者とは、水をやらないと枯れてしまう鉢植えの植物のような身近な存在から、ウクライナやパレスチナの人間たち、ひいては地球、宇宙全体にまで至り、「他者を思いやること」は、自らを充足させるだけでなく、他者をも活かす力をも持つのです。


 お一人が以前から「気にしている」という「デカンショ節」について、考えるところを話したいとのご希望が出ていますので、トップバッターとして登場願いましょう。

 
 
 

最新記事

すべて表示
10,パスカルの「夢×正義」

「風邪で熱がでたとき、球が自分の方にころがってどんどん大きくなってくる夢を見た。恐くなって目が覚めると汗をグッショリかいていて、熱が下がっていた」「何度か夢のできごとが実際に起き、夢を見ないぞと夢で念じたら、夢そのものを見なくなりました」「古今和歌集に夢が出てくる歌が確かありましたね」小野小町の「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを」(古今和歌集・恋歌五・552番)が有

 
 
 
9, 古代ギリシア人の夢

お一人がAI君に夢の科学的解析を頼んだところ、大脳皮質、記憶のたまり場「海馬」、感情に関連する「偏桃体」の三者のつながりから、夢が「自己回復のエネルギーを生産する場」になっている、とのヘーゲル的な説が出てくるそうです。アントニオ・ザドラ『夢を見るとき脳はー睡眠と夢の謎に迫る科学』(藤井留美訳、紀伊国屋書店)のご紹介があり、「夢は、私たちにとって必要なものだ、と言えるのではないか」との解説も、お一人

 
 
 
8,引きこもりの自分:ヘーゲルの夢解析

「夢は身体が必要としているのではないか」のお声、そして「目の見えない人でも夢を見るのか」の疑問から、江戸時代の名だたる検校・塙保己一(1746-1821)の話題に広がり、直木賞候補にもなっている話題作『見えるか保己一』(蝉谷めぐ美著、KADOKAWA)が紹介されるに至りました。目の見えないひとは、視覚以外の四感(触覚、嗅覚、聴覚、味覚)にかかわる夢を見ることを、受講生の方が調べてくれました。白神山

 
 
 

コメント


bottom of page