top of page

1, 哲学的ファクションと「私」

  • 2025年4月26日
  • 読了時間: 3分

本日から始まる講座の内容について、次のようにパンフレットに記載させていただいています。

 「私は誰?」。永遠の問いを胸に、「私」は古代ギリシアへの旅に出る。プラトンの学園アカデメイアに向かう途中で出会ったアリストテレスを案内人に、ソクラテス、プラトン、…そして時空を超えて登場するニーチェやアインシュタイン…人類最高の智者たちとの対話がいま始まる!さて、どのような話が展開するか、お楽しみに。

 テキストとして皆さんにお渡ししている拙著『アカデメイアの学堂』(夢譚書房)は、新しい哲学表現を目指して名付けた「哲学的ファクション」として書き上げたものです。ファクションとは、ファクトとフィクションを組み合わせた造語で、事実と事実の隙間をイマジュネーションで埋めることによって、過去をダイナミックに再現する手法、と位置付けています。

 

 サブテキストとして、私の小論文『哲学的ファクションの創造』(聖徳大学総合研究所『論叢』4)をお渡しして、拙著の背景をお話させてください。そこで、プラトンの対話編が、事実上、私の定義するファクションの部類に属することを示しています。ソクラテスがソフィストのプロタゴラスに議論を挑む作品『プロタゴラス』の想定設定年代(BC433-432にプラトンはまだ生まれておらず、喜劇作家のアリストパネスらがソクラテスを囲んでエロスについて議論を交わす『饗宴』が開かれたとされる年代(紀元前416年)には、プラトンはまだ十一歳、といった具合(サブテキストp.313)で、これらの見てきたような話はすべて何らかの形でプラトンが集めた情報によって再構成されたものです。

 

 古代ギリシアの哲学者たちの逸話を豊富に集めたローマ時代の該博家ディオゲネス・ラエルティオス(3世紀ごろ)の『ギリシア哲学者列伝』(岩波文庫、加来彰俊訳)によると、プラトンは二十歳のときソクラテスの弟子になった(三巻一章六、p.253)そうで、対話編『リュシス』をプラトンが読み上げるのを聴いていたソクラテスは、「おやおや、この若者は何と多くの嘘偽りをわたしについて語っていることだろう」とも言ったと、ディオゲネスは書いてもいるのです(同三巻一章三五、p.276)。

 

 「つまり彼の作品は、現実に存在する人物を歴史的な事実に載せ、それぞれの役割を演じさせることによって、彼自身の哲学を語っていくまぎれもない哲学的ファクションなのである」と私は書きました(サブテキストp.314)。そして、拙著について「私が試みている哲学的ファクションは、プラトン型の対話編とイコールではない。対話は活用するが、生きている人間同士の対話ではない。それは、私自身と死者との対話がベースになるのである」と書きました(同p.315)。

 

 次回、「私」は古代ギリシアの港ファレロンにいて、アテナイに続く登り坂を歩いていく小さな目が愛らしい、指輪をいくつもはめたお洒落な若者を見かけます。「ああ、あれは」と私は声をかけます。「おーい、そこのお人、アリストテレス、待たないか」(テキスト『アカデメイアの学堂』p.11)。とまあ、こんな形で本講座は始まります。

 
 
 

最新記事

すべて表示
10,パスカルの「夢×正義」

「風邪で熱がでたとき、球が自分の方にころがってどんどん大きくなってくる夢を見た。恐くなって目が覚めると汗をグッショリかいていて、熱が下がっていた」「何度か夢のできごとが実際に起き、夢を見ないぞと夢で念じたら、夢そのものを見なくなりました」「古今和歌集に夢が出てくる歌が確かありましたね」小野小町の「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを」(古今和歌集・恋歌五・552番)が有

 
 
 
9, 古代ギリシア人の夢

お一人がAI君に夢の科学的解析を頼んだところ、大脳皮質、記憶のたまり場「海馬」、感情に関連する「偏桃体」の三者のつながりから、夢が「自己回復のエネルギーを生産する場」になっている、とのヘーゲル的な説が出てくるそうです。アントニオ・ザドラ『夢を見るとき脳はー睡眠と夢の謎に迫る科学』(藤井留美訳、紀伊国屋書店)のご紹介があり、「夢は、私たちにとって必要なものだ、と言えるのではないか」との解説も、お一人

 
 
 
8,引きこもりの自分:ヘーゲルの夢解析

「夢は身体が必要としているのではないか」のお声、そして「目の見えない人でも夢を見るのか」の疑問から、江戸時代の名だたる検校・塙保己一(1746-1821)の話題に広がり、直木賞候補にもなっている話題作『見えるか保己一』(蝉谷めぐ美著、KADOKAWA)が紹介されるに至りました。目の見えないひとは、視覚以外の四感(触覚、嗅覚、聴覚、味覚)にかかわる夢を見ることを、受講生の方が調べてくれました。白神山

 
 
 

コメント


bottom of page