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9,ポスト・モダン、ボカロ、美空ひばりと天童よしみ

  • 2025年3月19日
  • 読了時間: 3分

「美空ひばりは語っている、天童よしみは歌っている」⇒ウーム、受講生のお一人のこの発言には降参!です。私は、一つの問いかけから刺激を受けて、意識下に潜んでいるものが表出することを「共振」と呼び、これを哲学の新しい概念として提案しています。「共鳴」や「共感」とは違って、問いかけ者の意図には入っていない何かが出てくることを期待した哲学的概念です。前回、チェコのプラハにおけるカール・ベームの『ドン・ジョヴァンニ』録音風景を一つの問いかけとしてお示ししましたが、皆さまから実に驚くような多彩な「共振」を頂戴し、感激しております。


 「ソクラテスは、論理の人ではなく、もともと情念の人だったのではないか」⇒プラトンの『ソクラテスの弁明』(山本光雄訳、角川文庫)をひも解くと、裁判でつるし上げられているソクラテスが、傍聴する人々に対してその感情に訴えるシーンがたくさん見られます。この裁判を見る限り、ご指摘の、ソクラテスは「情念の人」、と言っても過言ではないですね。

 「音楽は抽象芸術だと思っていたが、録音風景を見て具象であることに気づいた。そういえば、坂本龍一の『音を見る、時を聴く』という展覧会があるようだ」坂本龍一 | 音を視る 時を聴く | 展覧会 | 東京都現代美術館|MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO「封建主義における領主と平民の関係を描いているオペラ『ドン・ジョヴァンニ』は、ポスト・モダンからの逃走が込められている、との論文を読みました。この意味するところは何だろう」。このご指摘の論文は、「Vivid Opera Tokyo」なるサイトに掲げられている一文Ⅴ.「ポスト・モダン」からの逃走―『ドン・ジョヴァンニ』と大きな物語 – VIVID OPERA TOKYOのことですね。


 「ポスト・モダン」はフランスの哲学者リオタール(1924-1998)が名付けた概念で、イデオロギーや宗教といった大きな枠組みによって人間が縛られていた近代と違って、現代はこのような「大きな価値観」に縛られない多様な人間が存在する時代である、とし「大きな物語が終焉する」時代として「ポスト・モダン」の名を与えました。


 この一文の著者は、封建制のもとに「平民」「従者」「貴族」といった枠組みに縛られていた人々がドン・ジョヴァンニによって解放され、近代を特徴づける「固有名の獲得」が象徴されている、と解読したうえで、次のように続けます。

 「戦争による惨禍や資本主義の暴走によって、個人は単なる集合体の一員として固有性を失ってしまっているポスト・モダンの現代において改めてドン・ジョヴァンニの地獄落ちの意味を考えると、ポスト・モダン的ドン・ジョヴァンニは、『個有名』を喪失した時代においてただ一人、『個有名』を取り戻すことを試みた人物として描くことができる」「人々は、ドン・ジョヴァンニという『個有名の獲得』を試みた人間を黙殺し、『個有名』の喪失した世界に生き続けることを選んだのです」。


 音声合成技術を使ったボカロ(ボーカロイド)音楽の隆盛は、自分の存在に確信を持てない人々が、ボカロによって「固有名=自己」を発見しようとのポスト・モダンの典型的な現れとも見えます。さて、皆さんは名のない個人として生きるか、ドン・ジョヴァンニのように「周囲への溶け込み」に抗うか、どちらを選びますか。

 
 
 

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