前回、「あなたは何者」の問いに対して、実にエンタな答えを皆さんが用意してくれました。「亭主の鑑のような人」「小役人」「サザエさん」「レースのカーテン越しに見ているような人」「いい旦那じゃないけど、いいお父さん」。最高傑作が「半径2kmの宇宙で生きる、イチジクコバチの雄より多少マシな生き物」。イチジクコバチは雌と交尾するために、一生をイチジクの中で過ごす蜂です。さて、その心は、と考えるだけでウキウキしますね。
本日は、ご近所の杉並図書館で、予約者が117人に上るほど大ブレークしている哲学書『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎、新潮文庫』)の問題意識がテーマです。日経新聞のNIKKEI COMPASS(2022.3.29)は、次のように、このブレークの理由を解説しています。
「本書はまぎれもない哲学書ですが、不思議なほどによく売れています。昨年末に文庫版が販売されるや、2月には東大、京大の生協で売り上げ1位(ちなみに1月は、東大で2位、京大で1位、北大で4位)となり、現在までに7刷5万5千部を刷っています。暇があると、人は退屈してしまいます。人は暇の中でどう生きるべきなのでしょうか。著者の國分功一郎さんは同じ問いについて考えた古今の賢人の思索の一端を、あるいはその思索の前提となる先哲の思考の一端を、分かりやすい言葉で開陳して、私たちに提示してくれます。…この1冊さえ読めば、先賢先哲の思想に触れることが出来るのです!この『お得感』が名門大学生協でベストセラーとなる理由なのかもしれません」
そして、本書で触れられている哲学者・思想家を、生年を含めて紹介しています。
ホッブズ(1588)、パスカル(1623)、スピノザ(1632)、ルソー(1712)、カント(1724)、ヘーゲル(1770)、ノヴェーリス(1772)、キルケゴール(1813)、マルクス(1818)、モリス(1834)、ラファルグ(1842)、ニーチェ(1844)、ユクスキュル(1846)、テンニース(1855)、フロイト(1856)、ヴェブレン(1857)、ラッセル(1872)、ハイデッガー(1889)、グラムシ(1891)、ホルクハイマー(1895)、コジェーヴ(1902)、パッペンパイム(1902)、アドルノ(1903)、アレント(1906)、ガルブレイス(1908)、ドゥルーズ(1925)、ボードリヤール(1929)、サーリンズ(1930)、スヴェンセン(1970)
聞いたことのない人のほうが少ないと思うほど、歴史上の著名人そろい踏みですね。ちなみに、スヴェンセンは『退屈の小さな哲学』集英社新書』で世界的に話題になっているノルウエーの哲学者。『暇と退屈の倫理学』の著者の問題認識は、次のようなものです。
「現代の消費社会では暇の時間があふれており、その暇の時間に文化産業がさまざまな楽しみを用意して人々の欲望を刺激し、その暇の時間を費やさせて」おり「暇が搾取されている」(同書p.29)
「なぜ暇は搾取されるのだろうか?それは人が退屈することを嫌うからである」(同)「こうして、暇のなかでいかに生きるべきか、退屈とどう向き合うべきかという問いが現れる。(本書が)問いたいのはこの問いである」(同)
皆さんは暇人で、著者の言う「文化産業」=エンタに費やして、時間潰しをしている類ですか。著者の結論を要約すると「世界は暇している暇もないほど問題が山積している。それを考えることをエンタしろ。暇などなくなる」です。あなたの考える「現代の問題」とは!
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