7,デマゴーグの時代、何を思う
- 2月24日
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先日の日経朝刊の連載「点検 日本の選択②」に「外交安保の針路 『アテネの搾取』に陥るな」を表題とする次のような興味深い記事が掲載(2月11日)されています。
覇権国が優位性を利用して弱い立場にある同盟国を搾取する――。米欧では最近、トランプ政権を古代ギリシャの都市国家アテネとなぞらえる論考が目立つ。他の都市国家から徴収した資金をパルテノン神殿の建設に流用し、武力で領土を拡大する。アテネを盟主に結成した「デロス同盟」はペルシアの侵攻を阻止する目標を果たすと、こんな強権支配に転じた。不満を強めた都市国家の離反に見舞われ、同盟は解体に追い込まれる。
今こんな歴史が再現すれば、国際秩序は瓦解する。収奪を受ける同盟国に転落することなく、どうやって米国から世界の安定に資する行動を引き出すか。…高市首相は衆院選で得た安定的な政権基盤をそんな戦略外交に生かすべきだ。
誇張や嘘(デマ)、情緒的な扇動を用いて大衆の偏見や不満に訴えかけ、政治的野心や権力を達成しようとする「煽動的民衆指導者」のことを、古代ギリシアを語源とするデマゴーグ(Demagogue)と呼びます。「トランプ政権をアテネとなぞらえる論考が目立つ」とあるのは、ペリクレスの死後アテネ政界をリードした主戦民主派の指導者クレオン(? - 紀元前422年)に、トランプ大統領が重ねられているのです。
ペルシア戦争後に結成された「デロス同盟」は、アテネが金を徴収して支配を強める「アテネ帝国」へと変貌しました。クレオンは、スパルタとのペロポネソス戦争(前431-404)で功をなし、ペリクレス後のアテネを采配しますが、前422年に戦死しました。アリストテレスは「彼はその衝動的なふるまいで誰よりも民衆を腐敗堕落させたと思われる。…演壇上で大声を張り上げて悪態を吐き、衣服をたくし上げて民会で演説したのは彼が最初であった」(『アテナイ人の国制』橋場弦訳、岩波書店、p.84)と、彼のデマゴーグぶりを記述しています。
同時代人のアリストパネスは喜劇『騎士』(『ギリシア喜劇Ⅰアリストパネス(上)ちくま文庫』で、「われらが祖国をことごとく攪乱したこの悪人、怒鳴りちらしてわれらが祖国アテナイを聾せしめ、鮪とる漁師のごとく、岩の上より窺いて貢租を狙う」(pp.137-138)と皮肉を込めて揶揄、歴史家のトュキュディデスは、ペロポネソス戦争を記録した『戦史』(世界の名著5)のなかで、クレオンの演説について詳細に報告しています(pp.378-384)。
ソクラテス(前469頃-399)の取り巻きの一人アルキビアデスは、ペロポネソス戦争後期に将軍としてアテネを敗戦に導き、プラトンの従弟で弟子のクリティアスは敗戦後の恐怖政治(三十人政権)の指導者でした。ほぼ同時代に活動していたソクラテスとクレオンとの関係はクセノフォンやプラトンの著作からは得られませんが、取り巻きとのつながりが不利に働いた上、クレオン的なデマゴーグにあおられていた大衆がクレオンと同じ皮なめし業者アニュトスらの告発を真に受けて、死罪に票を入れた可能性が高いのでしょう。
政治家だけでなく、SNSを通じてデマゴーグ的な発言が目立つこの時代、皆さんはどのように感じ、何を思っているのか、率直なご意見を頂戴したいと思います。
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