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5,くじけないで:生きる重み

 「理解と受いれる、は違う」「30代のある日、開き直ったときに、私が私を受いれた」「60代の私は、相手に対して①同意②感謝③称賛を心がけるようにしている」「私の比較三原則①他人と比較しない②親兄弟と比較しない③過去の自分と比較しない。そういえばロダンは、勉学は普段の若返りである、と言ったなあ」「加島祥造の『受いれる』に、大の字になって空を見上げていて、すべてを受け入れる気持ちが生まれてきた、とありますが、京都の五山の送り火の大文字焼きの大の文字と、何かつながることがあるのでしょうか」「愛する人の死をどのようにして、受いれる、かは、グリーフ・ケアの考えにあります」と、前回も皆さま方から、心を洗われるたくさんの言葉を頂戴しました。


 今回は、98歳で詩人として登場した柴田トヨさん(明治44年6月26日~平成25年1月20日、101歳で老衰により没)を題材としたテキストpp.49-55の「くじけないで:生きる力」です。大いにおしゃべりの花が咲いた14年前の「哲学道場:しゃべり場」(2011年第Ⅰ期)の再現ともいえるこの講座、いかなる華が咲きますことやら。

明治、大正、昭和、平成と一世紀を生きてきました。震災や空襲など様々な怖い体験もしてきました」との書き出しで始まり、「くじけるな。頑張れ、頑張れ>ってー」の叱咤激励から綴られているトヨさんの著書『くじけないで』(飛鳥新社)のあとがき「朝はかならずやってくるー私の軌跡」は、「『人生、いつだってこれから。…一人暮らし二十年。私しっかり生きてます」と締めくくっています(pp.98-106)。


 さて、1968年8月に遡ります、ドブチュク第一書記による「人間の顔をした社会主義」を目指した自由化・民主化の動きがソ連軍の侵攻によって封じられ、「プラハの春」と称えられたチェコは再び圧政の中に沈みました。そんな時代を背景としたミラン・クンデラの小説『存在の耐えられない軽さ』(集英社文庫、千野栄一訳)は、「われわれがすでに一度経験したことが何もかももう一度繰り返され、そしてその繰り返しがさらに際限なく繰り返されるであろうと考えるなんて! いったいこの狂った神話は何を言おうとしているのであろうか?」とニーチェの「永劫回帰」論に首をかしげることから始まります。そして、古代ギリシアの哲学者パルメニデスが世界を、光/闇、細かさ/粗さ、暖かさ/寒さ、存在/非存在、軽さ/重さ、と分けて肯定的/否定的、と分類したことに触れ(pp.8-9)、アバンチュールに満ちた登場人物たちの「軽い人生」を肯定的にとらえているのです。


 「受け入れ」「受け流す」と軽やかな加島祥造の生き方に対し、柴田トヨさんはどっしりとした重み。とすれば、トヨさんの生き方がグッドで、加島祥造の生き方はバッドとなりますが、さてー。親戚、知人からメディアまで500人もが参加したトヨさんの葬儀の時、未発表の作品が紹介されました。「お迎えが何回も来たけれど、口実を作ってお断りしてきたの。でも私も101歳。次は無理かもしれない。私のお葬式、たくさんの人が来てくれるかしら。…天国でもしっかり暮らしてゆきます」(『最後の時間』飛鳥新社、p.11)


 人生は重い荷物を背負う繰り返しとするニーチェの「永劫回帰」論に従うと、トヨさん的「重い」生き方は、ひょっとしたら、天国でも繰り返されることになりかねませんね。

 
 
 

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