top of page

4, あえてクセノフォンを擁護する

  • 2月4日
  • 読了時間: 3分

 いやあ、まいりました。皆さんのクセノフォン評価が、あれほど低いとは。彼の「ソクラテスの想い出」を読んでも「哲学を感じられない」、「あれは自問自答しているソクラテスを描いているに過ぎない。他者の質問に対して答えているのではなく、自分でわかっている問題を問うて用意している答えを相手に伝えているだけ」。あまつさえに、クセノフォンの描くソクラテスをキルケゴールが「お人好しのおしゃべりな変人」とこき下ろしていることを引用している岩田靖夫著『増補 ソクラテス』(ちくま学芸文庫、p.20)が紹介され、クセノフォン・ファンとしては何とも言いようがありません。


 ソクラテスの話し相手とのおしゃべりをクセノフォンが忠実に再現しているとしたら、「おしゃべりな変人」はソクラテスの実像と言うことになりますね。しかし、ソクラテスの本質部分をあえて省いていたとしたら、クセノフォンはその部分を描かないほうがいい、と判断してのことだった、と考えられるのではないでしょうか。


 ここでは、キルケゴールの『著作集20 イロニーの概念』(白水社)の「クセノフォン論」(pp.30-51)をテキストにして、クセノフォンが描くクラテス像に何が足りなかったのか、そこには何か意図があったのか、について皆さんと探索したいと思うのです。

言うまでもなく、キルケゴール(1813-1855)は、「死にいたる病」「あれかこれか」などを著し、実存主義の先駆けとされるデンマークの哲学者です。「皮肉」と訳される「イロニー」はギリシア語の εἰρωνεία「エイロネイア 虚偽、仮面」由来の言葉で、知らないふりをして相手を油断させ、覚醒させるソクラテス産婆術の特徴的な技です。冒頭に「イロニーとして解釈されたソクラテスの立場」と題し、その解釈を可能にするもの」として1でクセノフォン論を、2でプラトン論を、キルケゴールは展開しています。


 クセノフォンの問題点について、あげられているのは以下の三点です。

①  ソクラテスから危険なものをすべて取りのぞいてしまい、ばかばかしいものへと還元してしまった。(p.31)

②  ソクラテスが相手の本質を見て取るために必要な、対話が行われている現場の状況描写が欠落している。(pp.31-33)

③  一見、あまりにも退屈な「受け答えのせりふ」の中に秘められた反響を聴く耳を欠いている。(pp.35-36)


 そしてキルケゴールは、クセノフォンの対話編は「チビで小造り、目を疲れさせ、詩的あるいは哲学的な思想にまで高まることなく、美しい言葉にもかかわらず、自然賛美の神学生の神がかりのたわごと同然」(p.37)とこき下ろしています。


 さてどうでしょうか。私は、ソクラテス断罪の理由としてあげられている「対話により青少年を堕落させた」などの理由に根拠がなく、「お人好しのおしゃべりな変人」として描くことによって、ソクラテスを死刑にしたアテナイの人たちにその判断の間違いをわからせるためだった、と考えたいのです。皆さんは、キルケゴールのクセノフォン論をどう考えるでしょうか。ご自由に、おしゃべりを聞かせてください。

 
 
 

最新記事

すべて表示
8, 生まれ変わり願望とソクラテス

「トランプのしていることは豊かなものはどんどんゆたかになり、貧しいものは逆にどんどん貧しくなるK字発展。しかし、貧しい階層を救うとのトランプ流ごまかしに騙されている」  「たくさんの国とのレートを加重平均する実質実効為替レートをみると、円はそれほど下がっているとは思えない。日本を訪れる発展途上国では賃金はあがるが物価もあがっている。日本は、ずっと物価も賃金も上がらないままできた。昔のことを考えると

 
 
 
7,デマゴーグの時代、何を思う

先日の日経朝刊の連載「点検 日本の選択②」に「外交安保の針路 『アテネの搾取』に陥るな」を表題とする次のような興味深い記事が掲載(2月11日)されています。  覇権国が優位性を利用して弱い立場にある同盟国を搾取する――。米欧では最近、トランプ政権を古代ギリシャの都市国家アテネとなぞらえる論考が目立つ。他の都市国家から徴収した資金をパルテノン神殿の建設に流用し、武力で領土を拡大する。アテネを盟主に結

 
 
 
6,アリストパネス登場

「ふと、会話と対話の違いは何だろう、と調べてみました。会話は、たんなる情報や気分の交換ですが、対話は何かのテーマをめぐっての考えや感じ方の相互交流だとか」―今回のテーマ「語り合う」について、いきなりこんな話が出てきました。「語り、とは、話すと違って、だます(騙り)の意味合いがあります。ソクラテスの対話術が、語り合うことにあるなら、ある意味では騙しの技術とも言えるのではないか」「話し合い、助け合いな

 
 
 

コメント


bottom of page