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2,落語に登場「もう一人の私」

 前回は冒頭から「哲学対話」の話に繋がり、お一人が対話ルールへの共感を表明なされました。参考までに漫画にまで登場している哲学対話の現況をお示しします。フランスの哲学者・ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)の言葉「エロチシズムは死に至る生の称揚(その価値を認めてほめたたえること)である」の登場は、前期講座「ドンジョヴァンニは情念のソクラテスである」のエロス論議を思い出させてくれました。

 

 フィクションと解釈の違いが認識されていないのではとのご忠言、さらにはソクラテスがなぜ書かないかは本人がプラトンの対話編で語っている、とのご指摘に、我が無知に冷や汗が出ます。まことにプラトンの『パイドロス』でソクラテスは、「書かれた言葉は問い返すこともできず、言葉のいのちを相手の心に植え付けることができるのは対話を通じてだけである」と語っています (276E~277A)。

 

 また、箴言「Date is days」(一日は無限だ)のご頂戴、「哲学は、日常のいま、ここにあるのではないか」との炯眼、そして「私」は「問うだけで何も答えないソクラテスのようですね」との赤面する”皮肉?“までいただき、「嘘つきパラドックス」の話まで飛び出したのには驚きました。「私は嘘つきだ」と、誰かが言ったとしましょう。彼が本当に嘘つきならば、彼の言明は偽りなので、彼は嘘つきではないことになり、矛盾が起きます。彼が、嘘つきでなければ、彼の言明は真となって彼は嘘つきということになるので、これも矛盾が起きます。このように、自分の発言が自分自身に戻ってきて、言明がぐるぐる回りになることを「自己言及性」と呼びます。

 

 本日は、テキストの第一章「もう一人の私」がテーマです。新聞記者として多くの方がたにインタビューをしてきた中で、「自分自身にインタビューできるか」の問いが生まれ、考える主体としての「私」とは別の「もう一人の私」が存在するのではないか、について書いています。インタビューは、問いを重ねることによって、相手の心の奥へと入りこむ、ソクラテスの対話法に通じる作業ですが、これは、ゴーギャンがタヒチ島滞在時代に描いた有名な作品「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」と触れ合います。

 そして、すべての存在は、洞窟の壁に照らされた実存在である「イデア」の影である、と考えるプラトンの「洞窟の比喩」に照らし合せて、「もう一人の私」は主体としての「私」の影のようなものではないか、と思うに至っています。

 

 常に不変同一なイデアとしての「私」は、時空間の中で耐えず変容し、他者に対して違った姿を見せる「もう一人の私」を身にまとっている、という考えも生まれます。「嘘つきパラドックス」と「もう一人の私」を組み合わせると、落語の「そこつ長屋」のような話へと発展します。そそっかしいことで知られる長屋の熊さんが、路地でお前が死んでいる、という連絡を受けます。そんなバカなと、現場に急行した熊さんは、確かにそこに死んでいるのが「自分だ」と確信します。その遺体を担いで家に戻ろうとする熊さんが、ふと漏らした言葉「この遺体が俺だとすると、この俺は誰なんだ」が、このパラドックスを思わせませんか。 

 本日はこの落語から始まります。

 
 
 

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