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2,映画の解題―無表情『ドン・ジョヴァンニ』の誘惑力

 前回も、皆さんからいろいろ貴重なご意見を拝聴しました。「ドン・ジョヴァンニが他者の生の原理だというが、生きる根本の“性”にまで踏み込んで欲しい」「さまざまな演出を見ていると、モーツァルトの音楽そのものが実に多様・多彩な表現を内蔵していることを感じる」「アメリカの映画監督ジョセフ・ロージー(1909~1984)の監督映画作品『ドン・ジョヴァンニ』(1979年)が傑作だと聞いたので、是非見てみたい」。


 番外でのおしゃべりで、 NHKの大河ドラマ「べらぼう」での男女の色恋の話が興味深く、井原西鶴(1642~1693)の浮世草子「好色一代男」や「好色一代女」などの「色物」との比較ができたら面白いと思う」との話も飛び出ました。

 

 お一人がご推奨のジョセフ・ロージー監督映画作品『ドン・ジョヴァンニ』については、オペラ歌手・藤原真理の言葉「ドン・ジョヴァンニ」は女性を口説く際に見せる仮面の微笑を浮かべるだけで、実はなんの表情も持ち合わせていないのである」を受けて、私はテキストで「無表情のドン・ジョヴァンニを描き出した傑作」と表現しました(テキストp.79)。

 世界遺産の街イタリアのヴィチェンツァ近郊にある建物ヴィッラ・アルメリコ 「ラ・ロトンダ」が、従者レポレロの歌う「カタログの歌Madamina, il catalogo è questo」(第4曲)の場面で極めて印象的に使われています。

マダミーナ   イル カターロゴ エェッ クエストMadamina, il catalogo è questo,



ねえ 奥さん この本ですよ

デッレ ベッレ  ケ アモォ イル パドロン ミーオdelle belle che amò il padron mio,

すなわち 恋の記録

ウン カターロゴ エッリ エェッ ケ オッ ファッティーオun catalogo egli è che ho fatt'io;

作者はこのわたしだ

オッセルヴァーテ レッジェーテ コン メosservate, leggete con me,

なんなら読み上げて

オッセルヴァーテ レッジェーテ コン メosservate, leggete con me.

みましょう どうですか

 

 こんな感じで、レポレロは、イタリアでは640人、ドイツでは230人、フランスでは100人、トルコで90人、そして地元のスペインでは1003人、合わせて2065人もの女性の名を記した巻物を開きながら、ドン・ジョヴァンニを追いかけて来たドンナ・エルヴィラに語りかけて行きます。直後に、ドン・ジョヴァンニの領地にある村でツェルリーナとマゼットの結婚式が行われようとしています。そして、ドン・ジョヴァンニの「誘惑力」が魅惑的に表現された二重唱「手に手を取り合って」(第7曲)が始まるのです。


 さあ、この辺までロージー監督の映画『ドン・ジョヴァンニ』を鑑賞することに致しましょう。

 
 
 

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